私立中学校に、入学してから2ヶ月間、本当にいろいろな大変な事が続いた娘さんは、隣の進学コースのクラスに移れる事になりました。
6月1日からクラスが移動できるということだったので、足を捻挫したこともあり、辛い今のクラスを一週間休んで、新しいクラスになる日から登校する事にしました。
母は、登校する日も、深夜早朝の仕事明けでした。
でも、全ての荷物を前のクラスのロッカーから移動したために、娘さんだけでは、持っていけないほどの重い荷物でした。
それで、今回も、無理を押して、車を運転して、娘さんを学校に送りました。
眠すぎました・・・。前日は、お客さんがものすごく多くて、忙しく働いた後でした・・・。
こんな大変な送迎も、今日で終わるような気がする・・・。
ふと、そんな思いが母にはしつつ、がんばって、娘さんを新しいクラスの見えるところまで送りました。
先生と一緒に、新しいクラスの中に入っていく娘さんを見届けて、母は、急いで、ファミレスに行きました。
そして、朝ごはんを食べて、その駐車場の車の中で、しばらく眠りました。
元気になったと思って、帰っていたのですが、また睡魔に襲われてきたので、途中の木陰に車をとめて、眠りました。
何とか、家にたどり着き。そして、娘さんが一日無事に過ごしているかを心配しながら、家事をしました。
娘さんは、足の捻挫がほとんど良くなっていたので、今日から器械体操部の練習にも参加しています。
辛い思いをしていないといいなぁと、思いながら、夜8時に車で電車の駅まで迎えに行きました。
娘さんが、遠くから歩いてきました・・・。
とても疲れて、泣きそうな顔で、歩いてきます・・・。
ああ、何かあったんだなぁ。と、車に近づいてくる娘さんの表情で思いました。
車に乗った娘さんは、ポツリポツリと、今日あった出来事を話してくれました。
「新しい進学コースのクラスに入ったんだよ。そして、授業があってさ。先生にあてられて、答えるように言われたんだよ。」
「まだ、前のクラスは、そこまで進んでなかったから、答えられなかったんだよね。」
「そしたら、他の子たちが、クスクス笑って、ものすごくバカにしたんだよ。まだ、習ってないからわからなかったのにさ。」
「昼休みに、部活の準備で、机を運んでいたんだよ。そしたら、前が見えなくて、階段から落ちて、今度は、反対の足を痛めたんだ。」
「でも、部活には、出なくちゃいけないと思って、自分でテーピングを巻いて、出たんだけど、痛くて耐えられなくて、練習のメニューをかえさせてもらったんだよ。」
「そしたら、監督とコーチと部長にメニューを勝手に変えた事を、ものすごく叱られて、足が痛すぎて出来なかったといったら、言葉できちんと言えといわれてさ。」
「もっと叱られて、謝らされたんだよ。そんなの、聞いたことがないから、言わなきゃ変えちゃいけないなんて、知らなかったんだよ。」
家に帰り着いて、荷物を置いた娘さんが、泣きながら言いました。
「オレさ、何のために、器械体操をしてるのか、わからなくなってきたんだよ。楽しくやりたいだけなのに。叱られるんだよ・・・。」
「クラスもさ、変わったけれど、うまくやっていける気がもう、何もしないんだ。がんばらないといけないと思うんだけど。もう、無理かもしれない・・・。」
母は、娘さんの頭をなでながら、言いました。
大丈夫だよ。娘さんは、本当によくがんばってるよ。大丈夫。無理はしなくていいんだよ・・・。
キッチンの椅子に娘さんを座らせました。
そして、階段から落ちて痛めたという、足を、靴下を脱がして見てみました。
そこには、一生懸命、痛くないようにと自分でがんばったのでしょう・・・。
テーピングで、つたないながらも、グルグルに巻いた足首が見えました。
母は、階段から落ちても、誰にも言えず、一人でがんばってテーピングを巻いている娘さんの姿を想像するだけで、本当に辛すぎて涙が出てきました。
グッと涙を耐えて、手では切れないほど硬く巻いたテーピングを、はさみで切って、取りました。
腫れ上がった足首に、こんなになるまでこらえたのに・・・。
辛い中、やっと、学校にも部活にも参加したのに・・・。
それなのに、厳しくし続けた周りの人たちの姿に、ただただ悲しくなりました。
泣いている娘さんに、母は、言いました。
娘さんは、がんばったよね。本当に、よくがんばったんだよ。
人にはね、向いている場所と、向いていない場所があるんだよ。
娘さんにとって、私立中学校が、向いてないだけじゃないかな?
世の中にはね、もっと、楽しくて、娘さんの能力を最大に伸ばしていける道が他にもあるんだよ。
昔から、行きたかった中学校だからね、応援してきたけれど、もうがんばったから、いいんじゃないかな?
娘さんが、母の顔を見て、言いました。
「オレ、がんばったんだよ。一生懸命、やっていこうとしたんだよ。もう、いいかな・・・。もう、いいよね・・・。」
ゆっくり、休もうね。また先のことは、考えればいいからね・・・。
娘さんは、静かに、眠っていきました。
もう二度と、こんな辛い思いを娘さんにはさせないと、心に決めた母でした。